施設に委ねるか、自分で整えるか──「カスタマイズできるサウナ」の設計思想

サウナ室の温度を変える。好きなタイミングでロウリュする。水風呂を自分の好みの温度にする。照明を暗くし、音楽を選び、好きな香りに包まれる。

完全個室のプライベートサウナでは、共同浴場では難しかったさまざまな「カスタマイズ」が可能になります。

では、自由に変えられる項目が多いほど、上質なサウナなのでしょうか。

必ずしも、そうとは限りません。

温度も湿度も利用者任せにする施設がある一方で、最も重要な温熱環境は施設側が決め、利用者には一部だけを調整させる施設もあります。

水風呂の温度を自分で変える施設もあれば、希望を伝えるとスタッフが事前に整えてくれる施設もあります。

そして、安全性や設備の保護のため、あえて一定時間は操作できないようにしている設備もあります。

ここには、

どこまで施設が環境をつくり、どこから利用者へ選択を委ねるのかという設計思想があります。

今回は、高級プライベートサウナにおける「自由」を考えます。

「自分好み」と「快適」は必ずしも同じではない

自分で調整できることには、大きな魅力があります。

今日は少し熱めにしたい。ロウリュは控えめにしたい。音楽を聴きながら入りたい。水風呂はそれほど冷たくなくていい。

その日の体調や気分は毎回同じではありません。

複数人で利用するのであれば、同伴者によって好みも異なります。

プライベートサウナなら、周囲の利用者を気にすることなく、自分たちに合わせて環境を変えられます。

一方で、選択肢が増えるほど、利用者が判断しなければならないことも増えます。

「何度が適切なのか」

「ロウリュは何杯までなのか」

「水風呂は何度まで下げるのか」

「照明はどの色にするのか」

「音楽は何を流すのか」

自由であるはずなのに、選ぶことそのものが負担になる場合もあります。

特に初めて利用するサウナであれば、設備の特性も、自分に適した温度も分からないかもしれません。

高級サウナに求められるのは、単純な自由度ではありません。

利用者が判断したいところだけを選べること。

そして、判断する必要のないところは、施設側がきちんと整えてくれていること。

その境界が重要になります。

KUDOCHIは「自分で空間を完成させる」

カスタマイズ型の分かりやすい例がKUDOCHIです。

KUDOCHIでは、完全個室という環境を前提に、音・光・香り・温度を利用者が自分好みに調整できることを特徴としています。

一方、水風呂にはチラーが使われ、一定の水温になるよう施設側で制御されています。

すべてが利用者任せなのではありません。

サウナ室の体験や感覚的な部分には自由を与えながら、冷却環境には一定の安定性を持たせています。

たとえば、同じ部屋でも、

照明を落とし、音を消し、静かにサウナへ入る。

好きな音楽を流し、光や香りを変えて、非日常的な空間を楽しむ。

その日の気分によって、まったく異なる体験にできます。

KUDOCHIが提供しているのは、一つの完成されたサウナ環境というよりも、利用者自身が最後の仕上げをするための環境と考えることができます。

施設が舞台をつくり、利用者が演出を決める。

カスタマイズ型の高級サウナを象徴する考え方です。

LOCA THE CLASS. AOYAMAは「核を決め、変化だけを委ねる」

一方、LOCA THE CLASS. AOYAMAは、異なる考え方をしています。

同施設では、マグマスパ式サウナの基本となる室温を60~65℃、湿度を60%に設定し、床や壁の天然溶岩プレートを含めた温熱環境そのものを施設側がつくっています。

利用者が一から熱環境を組み立てるのではありません。

まず、施設が考える基本の環境があります。

そのうえで、ロウリュにはオートロウリュとセルフロウリュの両方が用意されています。

オートロウリュによって一定の蒸気環境をつくりながら、利用者自身も好きなタイミングで変化を加えられる。

セルフロウリュ用にはアロマも用意されています。

つまり、

基本の温熱環境は施設がつくる。
その中での変化は利用者がつくる。

という構成です。

これはKUDOCHIのような自由度の高いカスタマイズとは少し違います。

どの温度が良いのかを最初から考える必要はありません。

施設が整えた環境に入り、その日の感覚に応じてロウリュや香りを加える。

自由を完全に渡すのではなく、施設側がつくった基準の中に自由を残す設計です。

高級サウナには「任せられる贅沢」もある

高級という言葉からは、「好きなことができる」という自由を想像しがちです。

しかし、高級ホテルやレストランを考えると、逆の価値も見えてきます。

高級レストランでは、必ずしも客が火加減や味付けを指定するわけではありません。

料理人が素材に適した方法を考え、最適と思われる状態で料理を提供します。

ホテルでも、利用者が毎回室温や照明設備を一から設計するわけではありません。

入室した時点で、すでに快適な状態が用意されています。

サウナも同じです。

温度、湿度、蒸気、水温、空調、休憩環境。

これらを細かく考えなくても、施設が一つの答えを用意している。

利用者は、その環境に身体を委ねればよい。

「自分で何でもできる」ことと同じくらい、「自分で決めなくてよい」ことも贅沢です。

特にサウナをリラックスする場所として利用するのであれば、判断する項目を減らすこと自体が体験設計になります。

THE PROLABO SAUNAは「固定」と「自由」を細かく分ける

THE PROLABO SAUNAも、固定された環境と利用者による調整を組み合わせています。

基本となるサウナ室は、室温65~70℃、湿度60~70%。天然溶岩プレートを使った温熱環境が施設側によって用意されています。

その一方で、セルフロウリュとオートロウリュの両方があり、アロマ水も利用できます。

さらに、水風呂は個室に備え付けられた製氷機の氷によって、利用者が好みの温度まで下げられます。

照明についても、サウナ室の色を変えられる設備が用意されています。

整理すると、

室温・湿度の基本設計→施設に任せる

ロウリュ→自動にも、自分の操作にもできる

水風呂の冷たさ→利用者が調整できる

光→利用者が変更できる

という構成です。

すべてを自由にするのではなく、施設の特徴を成立させる部分は固定し、体験の好みに関わるところだけを利用者へ開放しています。

この方法なら、施設が目指すサウナの特徴を保ちながら、一人ひとりの好みにも対応できます。

高級サウナのカスタマイズを考えるとき、この「何を固定するか」は非常に重要です。

SAUNA霧宙は「自由にするために制限する」

自由度と制限の関係がさらに分かりやすいのがSAUNA霧宙です。

同施設では、スチームジェネレーターによって基本の湿度を保ちながら、利用者がセルフロウリュを行ったり、天井からミストを発生させたりして体感温度を変えられます。

施設側も、「自分だけのサウナ空間をデザインする」楽しみとして紹介しています。

しかし、ミストは何度でも連続して出せるわけではありません。

ミストボタンには5分間のインターバルが設定されています。

これは、とても象徴的な仕組みです。

利用者は自分のタイミングで操作できる。

しかし、設備側には一定の制限がある。

自由と制御を同時に成立させています。

セルフロウリュも同様です。

自由に水をかけられるからといって、好きなだけ大量に水をかけてよいわけではありません。

過度なロウリュは急激な体感温度の上昇につながり、ストーブやサウナストーンにも負担を与えます。

本当に質の高いカスタマイズとは、何でも無制限にできることではありません。

安全に楽しめる範囲の中で、十分な自由が与えられていること。

制限もまた、環境設計の一部です。

「希望を伝えるだけ」というカスタマイズもある

利用者自身が操作する以外にも、カスタマイズする方法があります。

外苑前のSwayでは、水風呂にチラーを使用せず、季節や外気温によって水温が変化します。

夏場には氷を使ったオプションが用意されており、予約時に希望する水温を選ぶと、スタッフが事前に調整します。

反対に、水が冷たすぎる場合には、自分でお湯を加えることもできます。

ここでは、

利用者が機械を操作して水温をつくるのではなく、希望を伝え、施設側につくってもらうという方法が採られています。

これも一つの「高級」な考え方です。

利用者は、

「何℃まで下げるには氷を何kg入れればいいのか」と考える必要はありません。

自分の好みだけ伝えれば、準備は施設側が行う。

カスタマイズとは、必ずしも自分で操作することを意味しません。

自分に合わせてもらえることも、カスタマイズです。

カスタマイズできる項目は、大きく四つに分けられる

高級プライベートサウナの設備を見ていくと、利用者が調整できるものは、大きく四つに分類できます。

1.身体への刺激

温度、湿度、ロウリュ、水温、ミスト、風などです。

身体への負荷に直接関わるため、最も慎重な調整が必要になります。

自由度を高くする場合でも、設備側の上限や施設の案内が重要です。

2.感覚環境

光、音、香り、映像などです。

身体への直接的な熱負荷よりも、気分や没入感に関係します。

KUDOCHIのようなカスタマイズ型では、この領域の自由度が大きく取られています。

3.冷却方法

水風呂の温度、氷、シャワー、ミストなどです。

第4回で見てきたように、冷却の好みには個人差があります。

ここはプライベートサウナと相性のよいカスタマイズ領域です。

4.過ごし方

音楽を聴く、映像を見る、静かに過ごす、会話する、横になる、複数人で利用する。

同じ設備でも、どう過ごすかによって体験は変わります。

完全個室であること自体が、この自由を支えています。

身体への刺激ほど、施設側の介入が必要になる

ここで注目したいのは、すべてのカスタマイズが同じ性質ではないことです。

照明を暗くしすぎても、不快なら明るく戻せば済みます。

音楽が気に入らなければ止められます。

しかし、サウナ室を過度に熱くする、水風呂を極端に冷たくする、短時間に何度もロウリュする、といった操作は、身体への負荷そのものを変えます。

そのため、身体への刺激に近い設備ほど、

・操作できる範囲を限定する
・基本値は施設側が設定する
・インターバルを設ける
・使用量の目安を示す
・スタッフが事前に調整する

といった仕組みが重要になります。

高級サウナにおいて、制限は「サービス不足」とは限りません。

むしろ、利用者が考えなくても大きく外れないように設計されていることに価値があります。

初心者には「完成された環境」が使いやすい

サウナに慣れている人ほど、「今日は少し湿度を上げよう」「水風呂は短めにしよう」「2セット目だけロウリュを強くしよう」と、自分の身体の反応を見ながら調整できます。

一方、初心者は、自分に適した入り方そのものがまだ分かりません。

その状態で、温度を選ぶ。湿度を選ぶ。ロウリュ量を決める。水温を決める。

という複数の判断を求められても、何を基準にすればよいのか分かりません。

そう考えると、LOCA THE CLASS. AOYAMAやTHE PROLABO SAUNAのように、施設側が基本となる温湿度を決めている方式には、一つのメリットがあります。

まず施設が用意した状態を経験する。

そこから、

「もう少し蒸気が欲しい」

「水風呂は少しぬるくしたい」

と、必要な部分だけを変える。

これはカスタマイズの入り口として非常に分かりやすい方法です。

経験者には「変化させる余地」が楽しさになる

反対に、サウナに慣れてくると、自分の好みが少しずつ分かってきます。

熱い空気より湿度のある熱が好き。

ロウリュは一度に強くするより、少しずつ加えたい。

水風呂は冷たすぎない方がいい。

外気浴より静かな内気浴が好き。

音楽はいらない。

照明は暗い方が落ち着く。

この段階になると、施設側が完全に決めた環境よりも、自分で変えられる余地に魅力を感じることがあります。

プライベートサウナは、こうした細かな好みを反映しやすい場所です。

ただし、ここでも重要なのは自由の数ではありません。

温度、湿度、光、音、香り、水温というすべての設定を毎回変更したい人ばかりではありません。

自分が変えたいと思った項目だけ変えられること。

これが理想的なカスタマイズです。

複数人利用では「自由」が難しくなる

プライベートサウナは、一人だけでなく、カップル、家族、友人など複数人で利用することがあります。

この場合、カスタマイズには別の問題が生まれます。

一人は熱いサウナが好き。もう一人は低温が好き。

一人はロウリュをしたい。もう一人は蒸気が苦手。

一人は水風呂を冷たくしたい。もう一人は冷たい水に入りたくない。

完全個室だからこそ自由に変えられる一方、部屋全体の環境は共有しています。

そのため、複数人利用では、施設が用意した中間的な基本環境を基準にして、必要なところだけ調整する方法が使いやすくなります。

また、水風呂に入らない、シャワーを使う、休憩時間を別々にするなど、一人ひとりが別の方法を選べる設備も重要です。

高級プライベートサウナにおける自由とは、全員が同じ設定に合わせることではありません。

同じ部屋にいながら、違う過ごし方を許容できることも含まれます。

カスタマイズ環境を見るためのチェックポイント

施設を選ぶときは、「自由にカスタマイズできます」という説明だけでなく、何を、どこまで変えられるのかを見てみましょう。

基本の温熱環境は施設が決めているか

室温や湿度に明確な基準があるのか。それとも利用者が大きく変更できるのか。

ロウリュは自動か、自分で行うか

オートロウリュ、セルフロウリュ、両方のどれなのか。

水風呂は調整できるか

チラーで一定なのか。氷やお湯で変えられるのか。スタッフが事前に調整してくれるのか。

光・音・香りを変えられるか

変えられるだけでなく、完全に消したり無香にしたりできるか。

操作に適切な制限があるか

インターバル、使用量、温度範囲など、安全に使うための仕組みがあるか。

操作しなくても快適か

これが最も重要かもしれません。

何も変更しなくても、施設が意図した体験が成立するのか。

カスタマイズしなければ楽しめない施設と、カスタマイズすればさらに自分に近づけられる施設では、意味が異なります。

まとめ:本当の自由とは、「変えなくてもいい」ことである

高級プライベートサウナには、大きく分けて二つの考え方があります。

施設が考え抜いた環境に身体を委ねる。

自分の感覚に合わせて環境をつくる。

しかし、実際にはその中間に、多くの設計があります。

KUDOCHIは、音、光、香り、温度を広く利用者へ開放する。

LOCA THE CLASS. AOYAMAは、基本となる温熱環境を施設側が整え、ロウリュや香りによる変化を利用者へ委ねる。

THE PROLABO SAUNAは、室温と湿度を一定にしながら、ロウリュ、水風呂、光などに選択肢を残す。

SAUNA霧宙は、ロウリュやミストを自分で操作できる一方、設備には適切なインターバルを設ける。

Swayは、水温の希望を聞き、スタッフがあらかじめ環境を整える。

それぞれ、自由の置き場所が違います。

上質なカスタマイズとは、操作できるボタンが多いことではありません。

身体への負荷に関わる部分は施設が支え、気分や好みに関わる部分には自由を残す。

必要なら変えられる。しかし、変えたくなければ何もしなくてよい。

「自分で整えられる」と同時に、「施設に任せることもできる」。

この両方を選べることこそ、高級プライベートサウナにおける本当の自由なのかもしれません。

次回は、個室サウナにおける「誰と入るか」を考えます。

一人で静かに過ごすための個室。

カップルで時間を共有するための個室。

友人との会話を楽しむための個室。

そして、接待やコミュニケーションの場として設計されたサウナ。

個室は、本当に「一人になるため」だけの設備なのでしょうか。

第7回では、高級プライベートサウナにおける「人との距離」と、滞在空間としての設計を読み解きます。