「社長が倒れたら、会社が困る」
これはその通りです。
特に中小企業では、経営者自身が営業、経営判断、顧客対応など多くの役割を担っており、社長の健康状態が事業へ大きな影響を与えることもあります。
では、経営者の健康管理も仕事の一部なのだから、サウナ代を会社経費にしてもよいのではないか。という考え方は成立するのでしょうか。
結論からいえば、「健康管理に役立つ」という理由だけで、社長個人のサウナ代を会社経費として問題なく処理できるとは言えません。
むしろ役員の場合、会社が個人的な費用を負担すると、役員への経済的利益=役員給与として扱われる可能性があります。
今回は、社長・役員のサウナ代について、2026年時点の税務上の考え方を整理します。
※本記事は2026年11月時点の税制・国税庁公表資料をもとに一般的な考え方を整理したものです。具体的な処理は利用目的や会社の制度、契約内容等によって異なります。実際の申告については税理士等の専門家へご確認ください。

法人と社長個人は別の存在
一人会社やオーナー企業では、「会社のお金=自分のお金」のような感覚になりやすいかもしれません。
しかし税務上、法人と社長個人は別の主体です。
会社のお金で社長個人の支出を負担すれば、それが本当に会社の業務のための支出なのか、それとも社長個人が受けた利益なのかを考える必要があります。
国税庁は、法人が役員等に与える「経済的利益」について、実質的に給与を支給したのと同じ効果をもたらすものを役員給与として扱っています。
その具体例には、役員等が個人的に負担すべき費用を法人が負担した金額も含まれています。
つまり、「会社名義のクレジットカードで払った」から会社経費になるのではありません。
まず、そのサウナ料金が会社の費用なのか、社長個人の費用なのかを見る必要があります。
「社長の健康は会社に必要」は十分な理由になるか
会社にとって、経営者が健康であることは重要です。しかし、その理屈だけで考えると、健康的な食事、スポーツジム、マッサージ、旅行、睡眠用品、趣味など、健康やストレス解消に役立つ私的支出の多くを会社負担にできることになってしまいます。
仕事へ良い影響があることと、会社の事業上の費用であることは同じではありません。
例えば、忙しい経営者なので毎週金曜日に一人でサウナへ行き、その料金を会社カードで払うというケースであれば、通常は私的利用との区別が問題になります。
単に、「翌週の仕事のため」「経営判断の質を上げるため」「ストレスを解消するため」という理由だけでは、会社の業務に直接必要な支出であることを説明するのは難しいでしょう。
会社が払えば「役員給与」になる可能性がある
社長が個人的に負担すべきサウナ料金を会社が支払った場合、その負担額は役員への経済的利益と判断される可能性があります。
ここで重要なのは、経費として否認されるだけで終わるとは限らないということです。役員への経済的利益であれば、社長側では給与としての課税関係が生じる可能性があります。
さらに法人側では、役員給与には損金算入について特別なルールがあります。
国税庁によれば、役員へ継続して供与する経済的利益のうち、毎月おおむね一定額のものは定期同額給与となり得ますが、それ以外は定期同額給与に該当せず、損金に算入されない場合があります。
例えば、
4月 8,000円
5月 0円
6月 25,000円
7月 12,000円
のように、社長が好きなタイミングでサウナを利用し、その都度会社が負担するのであれば、「毎月おおむね一定」の経済的利益とは考えにくくなります。
結果として、社長側では給与として課税される、会社側では役員給与として損金算入できないという、会社側・個人側の両方で問題が生じる可能性があります。
毎月定額のサウナ会員権なら大丈夫?
では、社長専用のサウナ会員権を会社が毎月3万円支払う場合はどうでしょうか。
毎月同額なら定期同額給与に該当する可能性はあります。
国税庁も、役員に継続して供与する経済的利益の額が毎月おおむね一定である場合には、定期同額給与に該当し得るとしています。
ただし、これは、非課税の福利厚生費になるという意味ではありません。
私的利用であるなら、役員に対する現物給与として所得税上の課税対象となる問題は残ります。
「会社で払えるか」と「会社の損金にできるか」と「社長個人に給与課税されないか」は別々の問題です。
毎月定額だから、サウナ代を何の問題もなく福利厚生費として処理できる、ということではありません。
「福利厚生費にすればいい」は通用する?
では、社長のサウナ利用を福利厚生費として処理する方法はどうでしょうか。
前回で見たように、国税庁は福利厚生施設の利用による経済的利益について、一定の範囲で課税しなくて差し支えないとしています。
しかし、そこには明確な注意点があります。
役員だけを対象として供与される場合は除外されます。
そのため、「社長の健康管理を目的とした福利厚生制度」として社長だけが利用できるサウナ契約を用意しても、通常の従業員福利厚生と同じ非課税扱いを期待するのは難しくなります。
・役員1名だけの会社だから福利厚生費
・社長しかサウナ好きがいないから福利厚生費
という考え方でもありません。
重要なのは名称ではなく実態です。
全社員対象なら、社長が利用しても問題ない?
ここは少し話が変わります。
例えば、会社がサウナ施設と法人契約を結び、社長、役員、一般従業員の全員が同じ条件で利用できる制度を設けたとします。
この場合、社長も「役員だから特別に利用している」のではなく、会社が設けた福利厚生制度の対象者の一人として利用していることになります。
国税庁の通達も、福利厚生施設について「役員だけを対象」としている場合を除外しています。
したがって、役員が利用したという事実だけで直ちに問題になるわけではありません。
見るべきなのは、
役員だけが利用できる制度なのか。
従業員にも同じ利用機会があるのか。
利益の額が著しく多額ではないか。
実態として社長専用施設になっていないか。
という点です。
一人会社の場合はどう考える?
では、従業員がおらず、社長一人だけの法人の場合はどうでしょうか。
この場合、「全社員=社長一人だから、全社員対象の福利厚生」と考えたくなるかもしれません。
しかし、所得税基本通達36-29では、役員だけを対象として供与される福利厚生施設の利益を、非課税扱いから明確に除外しています。
そのため、「会社に一人しかいないから福利厚生費」という整理だけで非課税にするのは難しいでしょう。
一人会社ほど、法人のお金と社長個人のお金を明確に分けて考える必要があります。
ただし「社長が一人でサウナに入った=私的」とは限らない
ここまで読むと、「社長が一人でサウナへ行ったら全部プライベート」のように見えるかもしれません。
しかし、それも正確ではありません。重要なのは利用目的です。
例えば、会社がサウナ施設を運営している、サウナ設備を販売している、温浴施設のコンサルティングをしている、サウナメディアを運営しているという事業を行っている場合があります。
その社長が競合施設を調査するためにサウナへ入り、設備を確認したり、価格を調査する。サービス内容を記録し、記事やレポートを作成するという利用であれば、単なる私的な健康管理とは性質が違います。
問題になるのは、誰が入ったかではなく、なぜ入ったかです。
取材・視察なら記録を残す
事業目的で社長がサウナを利用するのであれば、その目的が後から分かるようにしておくことが重要です。
例えば、
- 訪問日時
- 施設名
- 調査目的
- 調査項目
- 写真
- メモ
- 比較資料
- 公開した記事
- 社内レポート
などです。
「競合調査でした」
という言葉だけでなく、実際に業務上の成果物が残っていれば、事業との関連性を説明しやすくなります。
逆に、毎週同じサウナへ通い、特に調査記録も成果物もないのであれば、「毎回競合調査だった」という説明には無理が出てきます。
取引先と利用した場合は、別の論点になる
社長が取引先を誘ってプライベートサウナを利用した場合も、「社長がサウナへ行った」という点だけを見てはいけません。
取引先との関係維持や接待を目的として会社が料金を負担したのであれば、役員個人の私的利用ではなく、交際費等として検討することになります。
つまり、
社長一人で疲労回復目的
→私的利用・役員給与の問題
社長が会社の福利厚生制度を他の従業員と同じ条件で利用
→福利厚生の問題
社長が競合調査として利用
→業務上の調査費等の問題
社長が取引先を接待
→交際費等の問題
と、同じサウナ料金でも性質は変わります。
次回は、この「サウナ接待」を詳しく扱います。
社長のサウナ代を見るためのチェックポイント
会社で支払う前に、次の点を確認してみましょう。
純粋なプライベート利用ではないか
休日のリフレッシュや日常的な健康維持が中心なら、個人負担との区分を慎重に考える必要があります。
社長だけの制度になっていないか
「福利厚生」と呼んでいても、役員しか利用できなければ非課税福利厚生としての整理は難しくなります。
全従業員が同じ条件で利用できるか
会社全体の福利厚生制度なら、役員もその一員として利用する形の方が説明しやすくなります。
業務目的なら記録があるか
取材、視察、競合調査なら、その目的と成果を残します。
取引先との利用ではないか
接待目的なら、役員個人の福利厚生ではなく交際費等として考えます。
個人的費用を会社が払っていないか
会社負担が役員への経済的利益になれば、役員給与として別の税務問題が生じます。
まとめ:「経営者の健康管理」だけでは会社経費の根拠にならない
経営者の健康は、会社にとって大切です。
しかし、大切であることと、会社がその費用を税務上負担できることは別です。
社長が健康維持やリフレッシュのために個人的にサウナを利用するのであれば、それだけで会社の事業費用になるとは考えにくいでしょう。
会社が個人的費用を負担すれば、役員への経済的利益として給与の問題が生じる可能性もあります。
一方で、
全社員を対象とした適切な福利厚生制度の一環として利用する。
取材や競合調査として利用する。
取引先との接待として利用する。
というケースでは、それぞれ異なる税務上の整理が必要になります。
つまり、「社長だから経費になる」でもなく、「社長だから経費にならない」でもない。
判断するべきなのは、役職ではなく支出の実態です。
次回は、社長や経営者とサウナの相性がよいからこそ生まれる、もう一つのテーマを取り上げます。
取引先と個室サウナへ入った。
会社が利用料金を支払った。
その費用は接待交際費として処理できるのでしょうか。
そして、サウナ後の会食が1人1万円以下なら、話題になる「1万円基準」はどこまで使えるのでしょうか。
次回「【2026年最新】取引先とのサウナは接待交際費になる?──“サウナ接待”の税務処理」で整理します。