港区が「サウナ条例」改正案を提出──赤坂の死亡事故を受け、非常用ブザーなど安全基準を強化へ

2025年12月15日、東京都港区赤坂の個室サウナで火災が発生し、利用していた夫婦2人が亡くなる事故がありました。

この事故を受け、港区は区内すべてのサウナ施設を対象に安全管理状況を調査。その結果を踏まえ、2026年9月、サウナ施設の安全基準を強化するための条例改正案を港区議会へ提出しました。

9月30日現在、議案は審議中です。

港区が「サウナ条例」改正案を提出──赤坂の死亡事故を受け、非常用ブザーなど安全基準を強化へ

125施設を調査。非常用ブザーがない施設も

事故後、港区は東京消防庁と合同で、公衆浴場・旅館業として営業する区内すべてのサウナ施設125施設を調査しました。

確認されたのは、非常用ブザーの有無や作動状況、サウナ室の扉の構造、スタッフによる巡回監視などです。

調査の結果、非常用ブザーが設置されていなかった施設は16施設。ブザーを設置していた109施設のうち、8施設では正常に作動しませんでした。

さらに、扉にラッチがある施設が16施設、サウナ室側へ開く「内開き」の扉も10施設確認されています。

非常用ブザーについては、「付いているか」だけではなく、必要なときに実際に作動するかまで含めて考えなければならないことが、この調査結果からも分かります。

非常用ブザーと「簡単に出られる扉」を義務化へ

港区議会に提出されたのは、「港区旅館業法施行条例及び港区公衆浴場法施行条例の一部を改正する条例」です。

港区議会は、改正案の目的を「サウナ施設における安全対策のための設備基準等を定めるもの」としています。

港区の発表や報道によると、主な改正内容は、

  • 非常用ブザー等の設置
  • 非常用設備の定期的な作動確認
  • サウナ室内から押す、または引くだけで容易に退出できる扉の構造

などです。

既存施設についても段階的な対応を求め、2027年9月末までに基準へ適合させる方針とされています。対応しない施設については、指導や行政処分も含めた対応が想定されています。

なぜ「旅館業」と「公衆浴場」の両方を改正するのか

今回の改正で注目したいのは、公衆浴場法施行条例だけでなく、旅館業法施行条例も対象になっていることです。

事故が起きた施設は、港区から旅館業法に基づく営業許可を受けていました。事故当時、港区の条例では旅館業、公衆浴場のいずれについても、サウナ室への非常用ボタン設置そのものは義務付けられていませんでした。

同じ「サウナ」であっても、施設の営業許可区分によって適用される制度が異なる。

近年、ホテル、個室サウナ、会員制施設などサウナの形態が多様化する中で、こうした制度上の違いも改めて注目されることになりました。

今回、港区が両方の条例を改正するのは、営業形態にかかわらずサウナ利用者の安全を確保するための基準を整える動きといえます。

個室サウナだからこそ、安全設備が重要になる

プライベートサウナには、他の利用者を気にせず、自分たちだけの空間で過ごせるという大きな魅力があります。

一方、その「誰にも邪魔されない環境」は、非常時には周囲から異変に気づかれにくい環境でもあります。

共同浴場であれば、他の利用者やスタッフが異変に気づく可能性があります。

完全個室では、その役割を、

非常用ブザー。

インターホン。

開閉しやすい扉。

スタッフの駆けつけ体制。

設備の日常点検。

といった仕組みで補う必要があります。

重要なのは、一つの安全設備だけに頼らないことです。

扉は自力で開けられる。

それでも出られなければ助けを呼べる。

非常設備は定期的に作動確認されている。

通報があればスタッフが対応できる。

こうした複数の安全策が重なって初めて、個室という空間に安心して身体を預けられます。

「設備がある」から「機能している」へ

今回の条例改正で、もう一つ重要なのが点検です。

港区の調査では、非常用ブザーを設置していた施設でも8施設で作動しませんでした。

非常設備は、通常の営業では使われない設備です。

だからこそ、壊れていても気づかない可能性があります。

非常ボタンが壁についていることと、そのボタンを押せば本当にスタッフへ通知されることは、同じではありません。

安全対策を「設備を設置すること」で終わらせず、機能する状態を維持することまで施設側の責任として求める。

今回の改正案で定期的な作動確認が盛り込まれている意味は、ここにあります。

サウナの価値を支えるのは、見えない設備

サウナ施設を選ぶとき、どうしても目が向くのは、

サウナ室の温度。

ロウリュ設備。

水風呂。

休憩スペース。

内装。

アメニティ。

といった、体験として分かりやすい部分です。

しかし、それらを安心して楽しめるのは、その裏側に安全設備と運営体制があるからです。

非常ボタンが正常に動く。

扉が確実に開く。

ストーブが点検されている。

異常があれば営業を止める。

緊急時には誰かが対応する。

こうした仕組みは、普段は利用者からほとんど見えません。

そして本来、安全設備は使わずに帰れることが一番です。

だからこそ、「何も起きなかった」という一日の裏側に、きちんとした管理があることが重要になります。

今回の条例改正案は、個室サウナの魅力を制限するためのものではなく、その魅力であるプライベートな環境を、安心して利用するための基盤を整えるものと考えることができます。

サウナが多様化し、個室というスタイルも一般的になってきた今。

温度や水風呂だけでなく、

「もしものとき、この施設はどうなっているのか」

という視点も、これからのサウナ選びでは少しずつ重要になっていきそうです。

※本記事は2026年9月30日時点の情報をもとにしています。港区議会に提出された議案第69号は、同日時点では議決結果が公表されていません。